混迷する兵庫県知事の内部告発問題。「斎藤知事頑張れ」「斎藤元彦知事は本当に悪いのか」知事を応援する層が増加中。
兵庫県知事・斎藤元彦氏の内部告発問題が連日報道で取り上げられています。
日本国民の多くが関心を持つ鉄板の政治イベント、自民党総裁選のニュースが盛り上がる中でも、斎藤元彦知事のニュースは連日報道されており、その話題性の高さを感じました。
その一方で、X(旧Twitter)では「実績がある」「職員のクーデターでは?」「湾岸利権に切り込んだヒーローなのでは」といった斎藤元彦氏を応援する声が9月頃から盛り上がり始めました。
「斎藤知事頑張れ」というハッシュタグで盛んに斎藤元彦氏への応援を投稿するXユーザーも目立ちます。
さらに、昨日放送されたReHacQ−リハック−【公式】さんの斎藤元彦氏との対談動画は80万回以上再生され、コメント欄は斎藤元彦氏の改革の成果を絶賛する声で溢れています。
近年、若者世代を中心に、大手メディア報道への不信感が強まっています。
大手メディアがこぞって斎藤元彦氏を非難するニュースを報じる中、メディアに不信感のある若い層からは、「斎藤知事は本当に悪いのか」という疑念が湧き上がっているようです。
県議会から不信任決議を受けた斎藤元彦氏は失職しましたが、出直し知事選に立候補しました。
ネット上での斎藤元彦氏支持層の急拡大もあり、候補者が乱立すれば、斎藤知事が再選するのではないかという予想もされています。
筆者は兵庫県庁の職員でもなければ地方自治に精通した学者でもないのですが、同じ業界で長年働いてきた経験から、この状況に対して、強い危機感を覚えています。
同じような不安や危機感を覚えている県庁・市役所職員の方も多いのではないでしょうか。
「斎藤知事のニュースは恐ろしくて見てられない」他県職員にまで広がる、地方公務員という職種の将来性に対する不安
筆者は兵庫県民でもなければ、兵庫県庁の職員でもありません。
外部の人間なので、斎藤元彦氏の人物像や、告発内容の妥当性については情報も持っておらず、判断できる立場にありません。
あくまで公務員経験の長い一般庶民の感想として、今後もし斎藤元彦氏が再選したらどうなるか、将来を予想したコラムとして読んでいただきたいと思います。
スキャンダルや選挙の駆け引きに終わらず、真実が明らかになることを切に願うとともに、亡くなられた職員の方に心からお悔やみを申し上げます。
筆者は大学時代、公務員講座に通っていたので、国家公務員や県庁、市役所に勤務している友人が数多くいます。
友人と久しぶりに集まった際、県庁で働く友人たちに今回の問題についてどう思っているか聞いてみました。
すると
自分の勤め先ではないけど、このニュース、恐ろしくて見てられないので見ないようにしている
という声が複数人からあがりました。
詳しく聞いたところ、人手不足の職場で異常な業務量を長時間勤務で捌いている日々の中で、公務員の方、しかも幹部職員の方が2名も自殺したという県庁のニュースは、正直他人事とは思えないという声が多かったです。
また、ただでさえ「若者の公務員離れ」が進んでいる中、こんな報道が全国的に広まれば優秀な人材は入ってこなくなるのでは?という懸念の声も聞きました。
ネット上で、「斎藤知事の改革を今後も支持します!」「職員のクーデターや利権の妨害に負けずに頑張ってほしい」といった声は最近本当に多くなりました。
しかし「斎藤知事の下で職員として働いて、改革を支持したいです!」というコメントは、少なくとも筆者は見たことがありません。
改革をガンガン指示するリーダーシップのある人が知事になりさえすれば、職員が影分身のように増えて、24時間働けるようになり、様々な改革をスムーズに進められる訳ではないのです。
自分が知事の下で働くことになる可能性が高い就活生が、兵庫県庁をこぞって志望しているという話は聞こえてきません。
今の状況を見ていると、就活中の学生は、兵庫県庁と民間企業を両方内定している場合、民間企業を選ぶ人が増加するのではないかと思います。
「斎藤知事頑張れ」というハッシュタグをつけて発信されて斎藤氏を応援している方の中には「改革を進める先進的な斎藤知事についていけない公務員は辞めたら良い」という意見が見られます。
しかし、筆者はこの意見は長期的な視点が不足しているのではないかと思います。
兵庫県庁の職員が直面している苦情電話対応の地獄。応募辞退に加え、採用辞退者も相当数出る可能性が・・・
「斎藤知事」に関するこの一連の事件では、兵庫県職員の業務量増加、精神的・肉体的な疲労は桁違いの凄まじさで、既に限界を超えていることが、こちらのニュースからも分かります。
【独自】「もはや災害…」兵庫県現役職員の悲鳴 斎藤元彦知事への苦情電話やまず 松沢成文氏「自分の進路を決断すべき」
報道関係者の前で首長がポロッと言った一言で、何件ものクレーム電話が殺到し通常業務ができず、夜残業して普段の仕事をすることになる・・・といったことは、公務員の方の多くは経験があるでしょう。
小さくニュースで取り上げられた程度の事案でも、「市民からクレームが入った場合の対応例」といった想定問答が関係課から飛んでくるものです。
ちょっとしたニュースでも、職員が普段の仕事を止めて電話対応をすることが増えるのに、斎藤知事に関する今回の件は「災害時の対応」レベルの負担が職員にのしかかっています。
さらに辞職ではなく、失職後再出馬ということですから、選挙期間中も含め、この状態はまだまだ続くでしょう。
現在働いている兵庫県職員の中にも、転職活動中の方はいると思いますが、職員採用試験にも既に影響が出ています。
兵庫県職員事務系職種(大卒程度・通常枠)採用試験(令和6年度)実施結果を見ると、総合事務職は申込者 639人、受験者数377人、採用90人、競争倍率4.2倍となっています。
採用倍率は7倍を超えると質が維持されるとよく言われますが、既に大きく7倍を割り込んでいます。
さらに斎藤知事が再出馬、再当選の可能性もあるとなると、採用された90人のうち採用辞退者が出る可能性も高そうです。
人口が兵庫県より200万人以上少ないお隣の京都府は、今年度の採用者は約200人です。
採用枠や試験制度が違うのかもしれませんが、人事課のホームページ上の数字を見る限り、兵庫県の事務系職種の採用者数は元々少ないです。
その上、さらに採用辞退者まで出てしまえば、少なくとも来年度の新人採用数はかなり少なくなります。
斎藤知事が再選すれば、兵庫県庁の職員採用試験は長期間にわたって不人気な状態が続き、優秀な人材を確保することは至難の業になるでしょう。
そうなれば、職員の方が苦しんでいる業務逼迫の状況は今年だけで終わらない問題になるかもしれません。
「公務員だから地獄にも耐えて当然」という業界になれば、将来一番不利益を被るのは住民
兵庫県庁の現在の状況は、民間企業でいうと、出世コースに乗った役員クラスの社員が自殺していて、その原因は社長に原因があると予想されている中、「お客様から支持を得ているから」と再び社長がその地位に戻ろうとしている状況です。
死人に口無しで、まだ真実も明らかになっていないのに「怪文書を書いた職員も悪い」という論点をずらした故人への誹謗中傷言が行われ、亡くなった公務員が「お客様」にバッシングを受けているような職場です。
民間企業であれば、社員が逃げるように大量離職してもおかしくないブラック企業の風土です。
今転職活動をすると、履歴書に兵庫県庁という現職の情報があるだけで、今の職場から脱出したいというマイナスな理由による転職だと邪推されやすいので、辞めたくても辞められない職員の方も多いかもしれません。
しかし、これから就職を考えている就活生や内定者はどうでしょうか。
売り手市場の時代、社員の命が羽根よりも軽い扱いを受ける会社に、そして業界に、誰が長年勤めたいと思うでしょうか。
今回の事件と関係が無い、他の県庁職員も「ニュースを見るのが怖い」と思うほど不安が広がっているような状況ですから、今後就職しようと考えていた方の気持ちが不安に傾くのは当然です。
「東大生の霞が関離れ」「若者の公務員離れ」と言われだして数年。
今度は、全国各地の県庁や市役所で、応募者の激減、内定辞退者の激増が社会問題として現れてくるかもしれません。
そうなれば、いくら知事が革新的であっても、その施策を実行できる手足となる兵士がいない状態になります。
ただでさえ、我が国の公務員は少子高齢社会において住民の多様なニーズに答えなければならない状況です。
南海トラフ巨大地震は今後30年の間に間違いなく起きると言われる中、災害時に参集し救援活動等を行うのは正規職員です。
近年、多くの市役所で職員数を削減し、窓口業務を委託業者が担っていますが、委託業者は業務内容が決まっていますから災害時に参集することはできません。
大災害では職員自身も被災することも多いですが、そんな中参集し住民の生命を守るのは公務員としての使命を理解しているからです。
終身雇用制が崩壊しつつあり、「たった一度の人生、より良い職場を求めて転職しよう」という価値観が広まった令和の時代。
今の時代に「公務員だからクレーム電話地獄にも耐えるのが当然」といった価値観は既に時代遅れになっています。
今回の事件を受けて、県職員という仕事の魅力は、既に地に落ちています。
そして、斎藤知事がトップにいる状態が長引けば長引くほど、優秀な人材は入ってこなくなるでしょう。
知事は10年も20年も、兵庫県政に関わることはありません。
しかし知事の手足となって働く職員が流出し、人手不足の組織から十分なサービスを受けられなくなって、長年にわたり苦しむことになるのは、県民なのです。
そして、先に挙げた他県の県庁職員の友人の不安の声も、決して杞憂ではありません。
こういった事態は、住民の付託を受けて選ばれたトップの下で働く公務員にはいつ起きてもおかしくないことです。
対岸の火事のゴシップ記事としてこのニュースを追うのではなく、公務員は既に「安定した楽なお仕事」ではなくなったことを冷静に受け止めましょう。
そして、一人ひとりが市場価値を高める努力をしていくことが、今日からできる最善の策です。
職員一人ひとりのスキルや能力、マインドが向上すれば、住民サービスが向上することにもつながります。
筆者は、公務員になったものの、将来に不安を覚えている方に少しでもお役に立てばという思いから記事を書いています。
今後も悩める公務員の皆様に少しでもお役に立てるコラムを執筆していきたいと思います。