公務員の副業解禁。
近年、様々な自治体で「公務員の副業を緩和する」取組みが進んでいます。
公務員の〝副業解禁〟自治体にもジワリ 神戸市、奈良・生駒市で基準明確化
こちらは2018年のニュースで、ここ数年はあまり公務員の副業緩和に関するニュースを見聞きすることはありませんでした。
しかし今年度は、大阪府が「組織・人事給与制度の今後の方向性」という資料にて、営利企業従事等制限の許可(兼業)要件の緩和に取り組むことを公表しました。
○営利企業従事等制限の許可(兼業)要件の緩和 【新規:令和6年度】
保有資格の活用や、社会・地域への貢献、自身のスキルアップ等、職員の多様化するニーズに対応できるよう、地方公務員法等を踏まえつつ、営利企業等の従事制限の許可要件を見直し、許可できる範囲や基準を明確化することにより、職員が安心して兼業できる環境を整備する。営利企業従事等制限の許可(兼業)要件の緩和 (大阪府「組織・人事給与制度の今後の方向性(案)」より)営利企業従事等制限の許可要件の見直し例 [申請が想定される業務例] 行政嘱託員、部活指導員、塾講師、地域活動やOB会等の役員、コンビニ等の販売員、飲食業のスタッフ、司会業、モデル・タレント業、新聞・牛乳配達、農林水産業、土木業、自作販売(アクセサリー、アート作品、アプリ開発)など [許可基準の例] ・兼業時間は週8時間以内又は1か月30時間以内、また勤務時間が割り振られた日において1日3時間以内の範囲を超えないこと ・原則として、兼業する事業の責任者とならないこと ・報酬が社会通念上相当と認められる範囲を超えないこと など
これまで、限定的な場面でしか認められてこなかった公務員の副業緩和。
コンビニ等の販売員や飲食店のスタッフも申請を想定しているという点は、かなり画期的な取組みではないでしょうか。
「地方公務員法等を踏まえつつ」という一文があるので、民間企業ほどの自由度は無いと思われるものの、大阪府という都市圏の都道府県で緩和されることにより、今後他の自治体で追随の動きが出てくる可能性も高そうです。
本記事では、近年話題になることが増えてきた公務員の副業解禁について、今後「公務員大副業時代は来るのか?」という未来を予測します。
筆者は公務員大副業時代が近いうちに必ず来ると想定しています。
その理由は主に3つです。
【1】公務員が不人気職種になってきているから
今年1月。
公務員の採用試験倍率が過去最低になったというニュースが、年始から世間に衝撃を与えました。
2022年度の地方公務員の採用試験の倍率は5・2倍(前年度比0・6ポイント減)となり、過去30年間で最低となったことが総務省のまとめで分かった。
地方公務員の採用試験、過去30年で最も低い5・2倍…23年間で競争率半減
少子化に加え、待遇などへの不満から受験者数が減ったことなどが要因とみられる。
一般的に、採用倍率は7倍を超えると組織の質が維持されると言われているので、5倍というのはかなり危機的状況です。
実際、筆者の勤務先でも、ベテラン層から「質が低すぎる若手職員が増えてきた」という嘆きの声を近年よく聞くようになりました。
具体的な事例を聞いたところ、「最近の若いもんは」というレベルを超越したレベルの「ヤバい」人材が本当に採用されている例も結構あるようです。
その理由として、先ほど紹介したニュース記事では「待遇などへの不満から」と分析されています。
平成時代に持て囃された「公務員バッシング」の成果か、近年、公務員は各種手当も削減され、福利厚生は民間の大企業に遠く及ばない自治体も多いです。
一方、民間業界では、人材獲得競争が激化する中、新入社員の給料をバク上げしたり、成果報酬型の仕組みを導入したりする企業も近年増えています。
しかし公務員は条例によって給与が決定されており、簡単にベースアップはできません。
その結果、大卒就職者の給与が手取り13万といった公務員の待遇が、相対的にかなり魅力を失いつつあります。
さらに追い打ちをかけているのはX(旧Twitter)で公務員が匿名アカウントで労働環境の悪さ、パワーハラスメントが蔓延する職場風土を積極的に発信し、「万バズ」することも多い状況です。
しかし、働き手にとって一番のモチベーションになる「給料のバク上げ」というのは、少子高齢社会で税収が減少傾向な我が国の自治体組織では至難の業でしょう。
そこで「魅力づくり」として副業を徐々に解禁することを「改革」としてアピールする自治体が増加する可能性は高いと思われます。
副業を緩和する新基準を作るだけなら、自治体からお金を出す必要はありません。
制度を変えるだけで実現できるという点でも、実現可能性は高いと考えられます。
【2】超少子高齢社会で、働き手が不足しているから
我が国は急激な少子高齢社会に突入しています。
2021年に発刊された、河合雅司氏の『未来のドリル コロナが見せた日本の弱点』では、DX化の推進により業務の省人化が進み、労働者の雇用が奪われる未来が来ても、深刻な人手不足は免れないという未来予測がされています。
AIの進展などによって2030年の就業者が約161万人減っても、少子高齢化に伴って勤労世代(20〜64歳)がそれ以上に少なくなることから、むしろ約64万人もの人手不足になるというのだ。
未来のドリル コロナが見せた日本の弱点 著:河合 雅司(2021)
特に行政の職場環境は「予算がつかないから」という理由でDX化が著しく遅れており、民間業界に比べて、DX化は10年以上遅れると考えられます。
会計年度職員を雇用する予算が無い部署では、令和時代になっても、正規職員が遅くまで残業して単純入力作業や文書発送作業をしているなんて話もよく聞きます。
今後は、繁閑の差が激しい部署の職員が、閑散期に他部署の業務を「社内副業」で兼務するケースが増えてくるかもしれません。
また、人事異動に職員のスキルや能力があまり考慮されないことが多い役所では、持っているスキルを活用できる職場に配置されている職員が少ないです。
こういった職員が社内副業にチャレンジし、自身のスキルを活かし、他部署の業務をダブルワークをする形態も今後出てくると筆者は予想しています。
【3】公務員組織に特有の「仕事しない」おじさんや「お局様」おばさんの発生を防ぐことができるから
よく「サラリーマンのキャリア人生は20代で決まる」と言われます。
この傾向は、公務員の世界ではより顕著で、新規採用時の「上司ガチャ」で決まると言っても過言ではありません。
実際、筆者は「上司ガチャがハズレた」パターンで、その後多くの新卒採用同期が行くような部署には一度も異動せず、出向先を中心に異動しているキャリアです。
出向先や出先機関には、自分のような「出世ルートから外れた人」が多くいます。
しかも出先機関=楽という訳でもなく、少人数で膨大な業務を捌くため、昼休みも取れずに市民対応をする「しんどさ」は魅力的な職場環境とは到底言えません。
そんな出先機関しか異動しない職員の中には、副業のような勤務先とは異なる場で、自分のキャリアを拡げるチャンスも無く、仕事へのモチベーションが下がってしまうベテランも多いです。
そして、やる気のある若手職員に仕事を押し付けてサボる「仕事しないおじさん」(おばさん)が大量発生しています。
行き場の無いモチベーションとプライドを職場内でしか昇華できないため、妙なこだわりで若手職員の仕事を勝手に増やし、承認欲求を満たそうとする「お局様おばさん」(おじさん)も大量発生する悲しい現状もあります。
長年狭い人事異動の世界で同じような仕事ばかりしていると、どうしても視野が狭くなっていきます。
このようなベテラン職員の「拗らせ」の防止としても、副業で外の人と一緒に仕事をし、民間感覚を知ることは役立つのではないでしょうか。
以上のような理由から、筆者は今後、民間業界より遅れて広がる形で、公務員の世界でも「副業ブーム」が訪れるのではないかと予想しています。
実際、アメリカやイギリスでは公務員も副業が可能ですので、グローバル化が急激に進む昨今、公務員の働き方も急速に変わる可能性があると予想しています。
後編の記事では、今後訪れるかもしれない大副業時代に備えて、公務員が今から準備すべきことをお伝えしたいと思います。